臨床研究個別プロジェクトコース

臨床研究個別プロジェクトコース紹介

Tissue Engineering and Reconstruction Course
~組織再生と機能再建を目指す先端医療についてのコンソーシアム

様々な臓器や組織に対する不可逆的な損傷に対するアプローチとして、ティッシュエンジニアリングに代表される再生医学は新しい医療の可能性として現在大きな注目を集めています。それと同時に人工関節などの人工材料を用いた組織の再建は、ナノテクノロジーをはじめとしたマテリアル工学の急速な進歩とあいまって大きな発展を遂げ、長期間にわたる臨床的成功をおさめています。また脳や脊髄損傷のような不可逆的な神経損傷に対して、神経の可塑性を促進することによって身体機能の回復をはかる治療として、リハビリテーションは大きな期待を集めています。本コースは組織再生や形態・機能再建、運動療法による神経可塑性の回復などに興味を持つ学生を対象に整形外科、顎歯科、リハビリテーション科、ティッシュエンジニアリング部が中心となって結成されたコンソーシアムです。セミナーや抄読会を通じてこれらの分野における基礎研究や臨床応用の現状を学ぶとともに、実際に東京大学で行われている試みにもふれていただきます。本コースが、皆さんが組織再生、機能再建に興味を持つきっかけとなってくれれば望外の幸せです。

整形外科・脊椎外科 田中 栄(PHS 37374, tanakas-ort@h.u-tokyo.ac.jp)(代表)
顎歯科 小笠原 徹(togasawara-tky@umin.ac.jp)
リハビリテーション部 中原康雄(nakaharay-int@h.u-tokyo.ac.jp)
ティッシュエンジニアリング部 星 和人(pochi-tky@umin.net)

①ティッシュエンジニアリング部(星 和人)

再生医療は、患者から組織の一部を採取し、試験管の中で培養して人工的に再生臓器を作製し、治療に用いる新しい医療です。現在、様々な組織・臓器で研究、開発が進んでいますが、その中でも軟骨領域においては臨床応用が進んでおり、関節軟骨の局所的な欠損の修復など、一定の治療成果を得ています。しかし、現行の方法では、培養した細胞を細胞懸濁液あるいはゲル状のままで患者に投与するため、軟骨組織の機能発現に必要な十分な力学的強度が得られず、治療できる部位や範囲がごく限られています。そのため、われわれは、力学的強度と3 次元形状を有するインプラント型再生軟骨を製造することを目指し、剛性のある足場素材、すなわち生分解性ポリマー多孔体を新規に導入するなどいくつかの要素技術の開発を経て、インプラント型再生軟骨(図)を作成することに成功しました。本コンソーシアムではこのようなトランスレーショナルリサーチの開発経過を紹介するとともに、今後の再生医療の課題と展望について議論する。

②整形外科(田中 栄)

整形外科は「運動器」を扱う診療科です。運動器は動物の生命を維持するために必要不可欠な活動である「運動」をになう器官の総称であり、骨、関節および筋など直接運動に関与する組織、さらにはこれらの働きを調節する神経も含みます。これら運動器の構成成分である各組織は、それぞれが固有の役割を果たすとともに、お互いに関連をもちながら運動という高度な生体機能へと結晶化します。運動は人間にとって根源的な機能であり、したがって運動器の健康を維持することは、ヒトがヒトらしく生きるためにきわめて重要な意味を有します。整形外科ではそのような運動器の障害を治療しています。高齢社会を迎えるわが国において、加齢に伴う運動器疾患をいかに解決するかは、われわれ及び次の世代に課せられた大きな課題であり、整形外科・脊椎外科のニーズはますます高まるばかりです。

本コースでは運動器疾患治療のための様々な取り組みの中で、人工関節を用いた関節機能再建を中心に紹介したいと考えています。現在整形外科で行われている人工関節はコバルトクロムやチタン合金、高分子ポリエチレンなどを組み合わせたものが主流であり、人工関節置換術は関節リウマチや変形性関節症などの疾患で損なわれた関節機能を速やかに回復させるなど安定した長期成績をほこっていますが、ポリエチレン磨耗や可動域低下など、今後解決すべき問題点も多く残されています。人工関節置換術による関節機能再建の歴史、現状、未来について皆さんと学んで行きたいと思います。


人工膝関節
人工股関節  

 

③ティッシュエンジニアリング部、骨・軟骨再生医療講座(小俣康徳)

社会の高齢化に伴い、変形性関節症などの運動器変性疾患が高齢者の生活の質を脅かす大きな問題となっているが、その病態の分子レベルでの解明は不十分であり、治療についても満足なものとはいえないため、運動器疾患の病態研究、治療研究への期待は高まるばかりである。
 本講座では、これらの問題を解決すべく、関節、骨、腱・靭帯、筋などの運動器の維持機構を組織幹細胞の観点から解析するとともに、変形性関節症をはじめとする変性疾患の分子病態を解明する。また体性幹細胞を駆使した再生医療研究も並行して行い、運動器変性疾患の問題を多角的に解決することを目指す。

(1)運動器の維持と変性のメカニズム解明:独自開発した変形性関節症マウスモデルに加えて、椎間板変性症、腱・靭帯再生、神経障害のマウスモデルを独自に開発し、組織の恒常性維持、変性の過程において組織幹細胞がどのような役割を果たし、組織幹細胞と組織構成細胞を制御するシグナル群の解析を行っている。各種遺伝子改変マウスを用いた機能解析やセルトラッキングのほか、レーザーマイクロダイセクションによる微小発現解析、エピゲノム解析、シングルセル解析、細胞伸展装置や静水圧負荷装置を用いたメカノバイオロジーの手法を研究に取り入れている。また、疼痛関連行動解析として、foot print 解析システム、疼痛閾値評価も行っている。

(2)運動器変性疾患の再生医療研究:体性幹細胞からの軟骨細胞の分化誘導法を用いた軟骨組織形成について研究を行い、臨床応用を目指す。またメカニズム解明や再生医療研究の過程で有望な分子、抗体、化合物が同定されれば、予防薬・治療薬としての応用についても研究する。
2018年より間葉系幹細胞の研究を本格化させ、特にヒト脂肪幹細胞を用いた運動器疾患治療のメカニズム解析のため、①幹細胞治療の臨床データの解析、②分子生物学的解析を駆使した幹細胞治療効果のメカニズム解明と効果向上を目指した実験的検討、③スケールアップのための要素技術の開発、に分けて研究を多角的に展開している。

④リハビリテーション科(中原康雄)

リハビリテーション科では、様々な疾患や障害を対象として主に臨床研究を行っており、特に運動器の障害を動作分析という手法で解析することに力を入れています。動作分析にはいくつかの手法がありますが、リハビリテーション科では、①家庭用ビデオカメラで撮影した画像を動画解析ソフトを用いて分析する方法、②圧センサーを用い歩行時の足底圧を計測することによる方法、③光学式三次元動作分析装置(VICON)と床反力計を用いた歩行分析システムによる方法、を採用しています。ヒトの正常歩行は、非常に複雑な四肢・体幹の動きの上に成り立っており、体の一部の病変・障害が歩行全体に影響を及ぼします。病変・障害に対する装具やリハビリテーションなどの保存的治療、手術治療が歩行にどのように影響するかを知ることは、治療効果の判定、適切な治療法の開発につながります。現在リハビリテーション科では、主な研究の対象を小児の先天性疾患、高齢者の運動器障害としています。小児疾患では、二分脊椎、先天性無痛症、先天性下肢形成不全などを対象とし、足部変形、下肢の感覚障害、下肢の変形や欠損が動作や歩行に及ぼす影響を研究しています。高齢者の運動器障害は近年特に注目されており、高齢者特有の動作や歩行を詳細に検討し、リハビリテーションによる介入がそれをどう改善するかを検討しています。

平成28年度プロジェクト

テーマ 「橈骨遠位端骨折の手術時期と術後成績の関係」
目的と方法 高齢者に発生した橈骨遠位端骨折は、その合併症評価などから手術時期が遅れることも多い。しかし、手術時期の遅れが手術治療に対してどのような影響があるかはよくわかっていない。手術時期の差異が、術後の整復位、さらには機能への影響を生じるか、当院の手術症例を対象に後ろ向きに検討する。
発表を目指す学会 2017年 日本老年医学会 in 名古屋

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