実行委員会・委員長
田中 栄

臨床研究者育成プログラムのご紹介

皆さんは臨床医としてのスタートラインに立ったばかりの方、あるいは今後臨床に携わろうと考えている方々がほとんどかと思います。臨床研究者育成プログラムは、MD研究者育成プログラムと並んで、本学部における研究者・研究医育成教育を充実させるプログラムの一つとして2010年にスタートしました。本プログラムの目的は、皆さんに医学における研究の重要性を知ってもらい、臨床研究者としての考え方の基礎を身につけていただくことであり、レクチャーシリーズとそれぞれの研究領域の臨床研究個別プロジェクトコースから構成されています。

中には「研究」というと「そんな難しいことは無理」と尻ごみをしてしまう人、あるいは「私は患者さんを診たいのであって、研究者になりたいわけではない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。それでは臨床現場に立つ医師には研究は不要なのでしょうか?

このような例を挙げてみましょう。

T医師は3年目の内科医です。外来ではたくさんの骨粗鬆症患者に対してビスホスホネートによる薬物療法を行っています。ある患者さんから「この薬は一生飲まないといけないのでしょうか?やめてしまうと骨折するのでしょうか?」と聞かれて、うまく答えることができませんでした。教科書を読んでもはっきりとした答えが書いていないようです。T医師はどうすればこの患者さんを納得させられるような説明ができるのか、と悩んでいます。

T医師が漠然と感じているような疑問は、臨床に携わっていると日常的に沸き起こってくるはずです。というか、なんら疑問を感じることなく、臨床業務を流れ作業のように行っている医師は、決して良い臨床医とは言えません。現在の医療が完全なものではない以上、臨床の現場に立てば立つほど、疑問は増えていくはずです。「臨床研究」とは、このような漠然とした疑問を、検証可能な「リサーチクエスチョン」として構造化させ、科学的な手法を用いて解決していく過程です。そして疑問を解決していく中で、また新たなリサーチクエスチョンが生まれて来る。そのような連鎖が、臨床医学を前へと進める推進力であり、臨床研究のだいご味です。

このように臨床研究とは決して特殊なことをする訳ではないのですが、どのようにして漠然とした疑問をリサーチクエスチョンへと昇華させていくか、どのような研究デザインを構築すればよいかなど、研究を上手に行うためにはある程度のノウハウが必要です。本プログラムでは、皆さんにそのような臨床研究のノウハウを身につける機会を提供していきたいと考えています。

本プログラムが対象とする方は学部学生と臨床研修医です。主としてM3以降の学生を対象としますが、M1-2の学生の参加も自由です。レクチャーシリーズは学内外の講師による最先端の医療についての講演です。学外の研修医の方の参加も自由です。臨床研究個別プロジェクトコースは、それぞれの研究領域を推進している複数の臨床科や講座の教員で構成するコンソーシアムが担当します。それぞれのコンソーシアムから提案いただいた様々な臨床研究の中から、皆さんの興味のあるテーマを選んで、指導を受けながら研究に取り組んでいただきます。内容はそれぞれのホームページをご覧下さい。臨床研究個別プロジェクトコースは登録制です。特に学外の病院の方は、それぞれのコースの責任者とご相談下さい。これは特に患者さんの情報に触れる可能性がある為の配慮です。頑張った方々には、合同の発表会や各学会への参加補助などの奨学金も予定されています。

本プログラムは決して完成したものではありません。皆さんの活発な議論と工夫で、本プログラムをさらに実りあるものにしていきたいと思っています。ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

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