臨床研究者育成プログラムに寄せて
基礎医学研究者の育成を目指して2008年にスタートした「MD研究者育成プログラム」に続き、2010年から山本一彦教授のイニシアティブで「臨床研究者育成プログラム」がスタートした。近年の医学・生命科学の進歩に伴い、医学の高度化・専門化が進み、医学部を卒業した臨床医が学ぶことが急速に増えた。実際に、臨床医の日常はきわめて激務であり、臨床に携わりながら研究を行うことは容易ではない。その結果、臨床の現場で高い研究マインドを持っているにもかかわらず、研究を行うことができない医師の希望に応えることがますます難しくなっているように思われる。東京大学医学部附属病院から発信される臨床研究の成果は世界トップのレベルにあると自負しているが、発表論文の数という点に限れば、最近はやや減少気味であることは事実である。こうしたことから臨床研究の衰退傾向が顕在化する前に、本プログラムをスタートしたことはきわめて時宜を得たものと思われる。 東大医学部医学科の学生のほとんどは初期臨床研修を受け、臨床の教室に配属されて行く。学生それぞれに目指すもの、一人一人の学生の目標とする医師像は多様であるし、そのことを大いに尊重したい。一方で、どのような場にあっても医学という学問を大切にし、問題点を冷静に観察し、これを解決する力を養うことがきわめて重要であることは言を待たない。本プログラムを通して基礎医学、臨床医学、社会医学の枠組みを越えて広く医学という学問に触れ、高い意思を持った臨床医が育成されることを望みたい。 医学部学生あるいは若い臨床医にとって、研究の現場に入って行きたいと思っても、必ずしもその敷居は低いものではない。しかし若いころに研究に触れる機会がないと年齢を経てから研究を始めるのはますます困難になる。受け入れる研究室の方も若い研究医と接することを期待しているにもかかわらず、なかなかその機会に恵まれないという声も聞く。本プログラムは医学部学生、卒業後の初期臨床研修医、あるいは専門診療科を決めた後の後期研修医に研究に触れやすい場を作ることを目的にスタートした。若い学生・臨床医が、研究における様々な方法、原理を学び、論理的な考え方やこれを発信する方法を身につける場所として本プログラムを活用することを期待する。 |