学会派遣プロジェクト

整形外科学会に参加して

私は臨床研究者育成プログラムの一環として、2022年6月16日〜18日に北海道札幌市で開催された第14回日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会、第48回日本整形外科スポーツ医学会学術集会に参加させていただきました。本プログラムではTissue Engineering and Reconstruction Courseに参加しております。今回は学会の内容に興味があるというお話をしたところ、ぜひ現地参加してみたらとお勧めいただいて初めて学会に参加する機会をいただきました。

東京大学整形外科の先生方の発表を中心に聴講しました。同じ大学の中でも、人工膝関節、ACL、再生医療、AIなど幅広いテーマがありました。
人工膝関節置換術やACL再建術においては、術後の大腿骨と脛骨の位置関係と、それに影響を及ぼすもしくは影響を受ける因子についての分析がなされていました。わずか数ミリ、数度の違いが重要であり、疼痛や可動域などの術後成績に影響することが示されていました。ダイナミックな手術の中でそれだけ繊細な調整、分析が必要だという点が人工膝関節置換術やACL再建術の面白さだと思いました。
再生医療の分野では、脂肪由来幹細胞の関節内注射による変形性膝関節症治療の成績が発表されていました。整形外科で血小板療法がよく使われていることは知っていましたが、変形性関節症に幹細胞治療を行うことは全く想像しておらず驚きました。幹細胞が効くメカニズムとしては、損傷部位における分化・成長因子分泌による組織修復などが挙げられていますがまだ全てが明らかになっている訳ではありません。変形性関節症の保存的治療の新しい選択肢として今後も注目していきたいと思いました。

私はスポーツ整形外科に興味があるのでスポーツ整形外科関連のシンポジウムも積極的に聴講しました。ACLに関するシンポジウムが特に多かったです。スポーツによる傷害としてACL損傷が多く、また膝の不安定性はさらなる怪我や関節の変形にもつながるため重要な問題となっています。損傷を防ぐためのトレーニング、リスク因子、損傷が起こりやすい動きの分析、再建術における工夫などACLだけでも多くの分野があり大変興味深かったです。例えばACL再建では術後の再断裂が起こりやすく、いかに術後成績を改善するか試行錯誤されていることが伝わってきました。使用するグラフト、骨孔位置、張力、術前待機時間、術後のリハビリなど様々な方向からのアプローチがありました。その中でも骨孔位置について、まだ最適解がわかっていないことが意外でした。ACLの元来の付着部位を組織学やバイオメカニクスの観点から分析することでより良い再建方法を探る取り組みがありました。関節の複雑な動きに対応するにはやはり元の靭帯の構造を深く知ることが大切なのではと感じました。またACLのリモデリングにおけるosteopontinという蛋白の影響が大変興味深かったです。力学的負荷が過度に小さいとACLのコラーゲン繊維が脆弱化しますが、osteopontin KOではwild typeに比べて脆弱化が抑制されるとのことでした。リモデリングに力学的負荷が影響することはイメージ通りだったのですが、そこに関わる伝達物質という観点は私にとっては斬新でした。より詳しいメカニズムがわかればACLの保存治療につながるのではと感じました。

今回現地参加をさせていただいた中で、先生方の活発な議論が印象に残りました。このような場が医療の発展につながるのだと実感できました。また様々な研究に触れたことで、臨床ではひとつひとつの選択の意義を考え、研究では今後の医療の発展にどう活かすかを意識することが大切だと感じました。
東京大学整形外科の先生方がポスター賞やOutstanding Young investigator awardを受賞されていたことも大変印象的でした。整形外科分野を引っ張ていく先生方の姿を間近で見させていただけて刺激を受けましたし、私も自分の興味がある分野を見極めて勉強したいと思いました。

このような貴重な機会をくださった臨床研究者育成プログラムの方々に感謝して体験記の締めとさせていただきます。

M4 北村野乃

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