学会派遣プロジェクト

国際老年医学会、日本老年医学会総会に参加して

僕は臨床研究者育成プログラムの一環で、2023年6月12日〜14日に横浜で開催された国際老年医学会(IAGG Asia/Oceania 2023)と2023年6月16日〜6月18日に同じく横浜で開催された第33回日本老年医学会総会に参加させていただきました。
本プログラムではGeriatric/General Medicine Research Courseに参加しております。

学会に参加させていただく以前から、東京大学大学院医学系研究科 在宅医療学講座の木棚先生のご指導のもと、在宅医療を受けている患者のアルツハイマー病薬の服薬中止に関する研究に参加させていただいていて、その研究結果を、日本と国際の両学会でポスター発表されるということだったので、そのポスター発表の様子を見させていただくのを含め、様々な老年医学分野に興味があったので発表を聴講するために参加させていただきました。

僕は老年医学の中でも、病気や老化に伴って起こる生理的な変化や細胞、組織に起こる形態的な変化に興味を持っていて、個体老化・細胞老化に関わるmetabolismの変化とそれに起因する加齢性疾患とその性差の生物学的な原因に関して興味がありましたが、両学会では病理学的な研究発表のほかにも様々な分野の発表を聞く事ができました。

国際老年医学会では、高齢化が進んでいる台湾と日本のコホート研究を国横断的に比較し、かつ、アンケートなどで取った行動データや臨床データと、遺伝子型データや代謝データを用いたオミクスデータと関連づけていくことで、特に身体認知機能低下症候群(Physio-Cognitive Decline Syndrome : PCDS、障害のない運動機能低下と認知症ではない認知機能低下を有する病態)のリスクファクターないし、バイオマーカーを探索していく研究の中で、脂肪酸代謝経路と胆汁酸合成経路が両国のデータからPCDSに関わっていることがわかったとのことで、今後のメカニズム解明を期待するとともに、PCDSを含む老化現象の要因を調べるためには、台湾と日本の両国が実施したような大きなコホート研究が大事であることがよく理解できました。また、そのような病気の原因を探る研究だけでなく、高齢者の生活を支える技術(Assistive technology)の研究もとても印象に残りました。Assistive technologyには高齢者の運動機能、感情表現、自立を助ける他に、介護をサポートする技術がありますが、紹介されていたのはAIの画像認識技術を使って、表情の分析により認知機能低下患者を見分けたり、またAIの自然言語処理技術を使って、医師、医療スタッフと患者の会話を分析することによって、認知機能低下度合いを評価したりする技術でした。画像処理で認知機能低下を見分ける技術は、他の画像診断学分野でもAIが活用されているので、馴染みあるものですが、会話を分析する技術に関しては初めて聞いたので、とても驚きでした。認知症以外にも、他の精神疾患の評価にも使えるのではないかなと考えました。

日本老年医学会でも、AIやICT、ロボットの高齢者ケアへの活用についての発表を聞きました。国際老年医学会で発表されていた技術面の話以外にも、日本ならではである導入の現状と患者や介護者、医療関係者の技術受容に関する研究、技術導入のための効率・効果の適正な評価方法の研究、高齢者の多様な生活の場を再現できる実証フィールドの研究など、生み出した技術をどう実際に活かしていくか、活かすためには何が必要か、ということに焦点を当てた発表が多かったことが印象的でした。生み出した技術が本当に現場に合っているのかを実証するために使用される、一般住宅や介護施設での生活を再現したリビングラボでは、トイレやお風呂のサイズ変更や、階段やスロープ、手すりの取り外しも可能で、環境調整がとても柔軟に行えること、そして、リビングラボには環境下での転倒防止システムがあることなどを聞き、実証研究の難しさと、実証研究を進めるにあたっての研究や開発の面白さを感じ取れたと思います。

シンポジウム以外にも、ランチョンセミナーや特別講演、ポスター発表で色々なトピックの研究があることを知る事ができました。国際学会と日本の学会の両学会の雰囲気を知ることもできましたし、元々の自分の興味範囲から外れたところにも面白い研究がたくさんあるなと思いました。研究同士繋がっているので、狭い範囲にとらわれずに、色んな階層の視点を持ってどんどん勉強をしていこうと気持ちが高められたと思います。

今回、学会参加するにあたって支援をしてくださった臨床研究者育成プログラムの方々、Geriatric/General Medicine Research Courseの先生方に心からの感謝をして、体験記の締めとさせていただきます。

M2 野口寛太

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